IP無線機は、携帯キャリアの通信回線を利用した無線機です。従来の無線機で必要とされていた、無線従事者などの資格や免許が必要ありません。
さらに、通話品質も高く、通信制限や障害物などの影響も受けにくいことから、物流や警備、災害時などでも幅広く、安心して使うことができます。
この記事では、IP無線の仕組みやMCA無線、IP電話の違いについて解説しています。また、レンタルや購入の料金についても紹介していますので、IP無線機の導入を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
何かご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
IP無線とは
IP無線とは、NTTドコモやau、ソフトバンクといった、携帯電話キャリアの回線を利用して通信を行う無線システムのことです。
IP無線のIPとは「Internet Protocol(インターネット・プロトコル)」の略称です。インターネット・プロトコルとは、複数の通信ネットワーク同士がデータを送受信するための通信規約のひとつです。
仕組み
IP無線は、携帯電話のパケット通信網やWi-Fi無線のパケット機能で、音声をパケットデータに変換して伝送することで通信を行う仕組みです。
これまでの無線機は、電波を飛ばす仕組みであったため、電波の届く範囲でしか通信ができませんでした。
しかし、IP無線は携帯電話やWi-Fのデータの回線を使うことで、通信範囲が急速に向上したほか、障害物があっても電波が途切れることなく通話ができるようになりました。
そのため、電話やインターネットがつながるところであれば、どこでも通話が可能となりました。
他との違い
IP無線機のほかにもMCA無線や、IP電話の無線機があります。ここでは、それぞれの違いについて紹介します。
MCA無線との違い
MCA無線とは、専用の800MHz帯の電波を利用して通信ができる無線機です。一般財団法人移動無線センターによって、1982年10月に開始されたサービスで、物流、警備・消防、医療といった業界で活躍している無線機です。
全国各地にある中継局を経由して通信を行い、地震や台風、洪水といった自然災害が多い日本では、緊急連絡手段として活躍されてきました。
MCA無線との違いは、以下の3点です。
・契約すれば全国で通話が可能
・暗号化通信のためセキュリティが万全
・免許および資格が必要ない
MCA無線も広いエリアでの利用には適していますが、中継局の契約数によって通信距離が変わってくるのに対し、IP無線機は携帯回線の電波が届く範囲であれば、契約してしまえばどこでも通話が可能です。
また、IP無線機はメールやインターネットと同様に暗号化されたデータでやりとりを行うため、混信にともなう傍受や盗聴の心配がなく、セキュリティ面でも安心です。
さらに、MCA無線機は無線従事者などの資格は必要ありませんが、免許の申請は必要となります。一方で、IP無線機は免許や資格を必要としないため、IP無線機を購入後にすぐに使用できるため、導入しやすい無線機といえます。
IP電話との違い
IP電話とは、インターネット回線を利用して相手と通話ができる電話サービスのことです。ひかり電話や050で始まる電話番号での通話や、LINEやスカイプなど、電話番号がなくても通話ができるタイプもあります。
IP無線機とIP電話は、どちらもインターネット・プロトコルを使用した通信方式ですが、主な違いは次のとおりです。
・電話番号に依存しない
・通信制限がかかりにくい
IP電話は050の番号やLINEなどの電話番号を必要とするのに対し、IP無線機は携帯キャリアの回線を使用するものの電話番号は不要です。契約を行えばすぐに利用可能です。
また、IP電話は固定タイプであれば、専用の機器を電源に接続しなければ使えません。そのため、停電時は使用できない可能性があります。
LINEなどの電話番号不要タイプも携帯キャリアの通話回線を使用するため、通話品質が不安定になり、つながらなくなるおそれがあります。
一方、IP無線機は携帯の通信回線を使うものの、データ回線をメインとするため、通話回線ほど制限を受ける影響は少ないといえます。
IP無線のメリット・デメリット
ここでは、IP無線機のメリット・デメリットについて紹介します。デメリットも含めて把握することで、特性を理解した使い方ができるようになるでしょう。
メリット
メリットは以下のとおりです。
<通信エリアが広い>
携帯キャリアの通信回線を使用するため、回線がつながる場所であれば、屋内外どこでも通信を行うことができます。
近年の携帯キャリアの基地局は、全国エリアでつながるようになっています。無線ではつながりにくい都市部のビル群の中や地下エリアでも、電波が届く範囲であれば通信は可能です。
<個別だけでなく同時通話も可能>
携帯キャリアを使う携帯電話での通話は1対1が基本ですが、IP無線機では複数人との同時通話が可能です。1対1の通話はもちろんのこと、従来の無線機と同様に人数の制限なく、一斉に情報の伝達や共有も可能です。
<免許や資格が不要>
従来の無線機は周波数が決められているほか、国家資格や免許が必要ですが、IP無線機の場合は、利用するにあたって資格や免許の必要がありません。国から認可されている携帯キャリアの回線を使用するため、すぐに利用可能です。
<通話の秘匿性が高い>
暗号化通信で送受信しているため、従来の無線機のように混信がなく、盗聴や傍受される心配がありません。インターネット通信の標準的なセキュリティが確保されていれば、セキュリティを保ったなかで通信が可能です。
<定額制で低コスト>
IP無線機は月額で費用がかかります。月額固定制であれば、通信を気にせず使用できるため、通信料を抑えることができるのもメリットです。
デメリット
デメリットについても紹介します。
<携帯キャリアの回線がつながらない場所では通信できない>
IP無線機は携帯電話のキャリア回線を使用しているため、山岳地域など一部エリアは電波が届かず、利用できない可能性もあります。
<回線混雑時はつながりにくい可能性がある>
インターネット回線のため、何らかの通信障害や混雑時には、つながりにくくなる可能性もあります。
<月々の固定料金がかかる>
月額固定制で費用が抑えられるものの、インターネット回線を使用するため、毎月の通信料が発生し、ランニングコストがかかる点もデメリットです。
IP無線の活用シーン
IP無線をどのように活用しているのかを知りたい方もいるでしょう。ここでは、いくつかの活用事例を紹介しますので、参考にしてみてください。
<トラックの運搬>
トラックの配送にはIP無線機が適しています。GPS機能とリアルタイム通信で広範囲に対応し、遅延時などの情報共有にも役立ちます。
道路封鎖時は指令センターが状況を把握し、迂回ルートや代替トラックを提案することも可能です。IP無線機の広域通信機能を活用すればさらに効果的です。
<イベント運営>
マラソン大会など、数万人~数十万人が訪れる大規模イベント運営に適しています。河川敷などの広範囲に渡る場合は、エリアごとに人員を配置し、交通状況や混雑状況に応じて、適切な誘導が求められます。
そういったリアルタイムでの連携が必要な場面において、同時通話に対応できるIP無線機は、最適な通信機器といえます。
<緊急時>
事故や火災などの緊急事態に備えて、常備の無線機が有用です。IP無線機はハンズフリーで携帯可能であり、迅速な対応が可能です。
携帯回線のため接続には課題がありますが、データ回線を使用するため、通話回線にくらべるとパンクしづらいのも特徴です。災害時を想定したシステムも存在するため、非常用に常備しておくのもおすすめでしょう。
IP無線の料金相場
IP無線機の料金相場について紹介します。利用する期間や目的によって、レンタルと購入を使い分けるのがよいでしょう。
短期レンタル
短期レンタルとは、1泊2日や2泊3日などの数日単位でのレンタルを指します。1日あたりの価格は4,000〜5,000円程度かかります。イヤホンマイクやヘッドセットなどのアクセサリを追加したい場合は、別途オプション料金が発生し、価格は300円程度です。
ほかにも長期レンタルや購入といった選択肢もありますが、単日のイベントやライブなど期間限定で使用するのであれば、費用も安く済む短期レンタルで十分でしょう。
また、インカムやトランシーバーなど代替手段もありますが、ビル群や人混みなど障害物がある場合は、通信が不安定になることもあります。その点、IP無線機は携帯キャリアの回線を利用するため、通話が途切れることなく快適に会話ができます。
長期レンタル
長期レンタルとは、1年や3年などの年単位でのレンタルを指します。レンタルの相場は月額3,000〜4,000円程度です。また、アクセサリやその他のオプション料金は、月額500円程度が一般的です。
さらに、GPSの位置情報管理のオプションを追加する場合は、月額通信料金として500〜700円程度がかかります。
長期レンタルでは、万が一故障や不具合が発生した場合でも追加料金なしで対応してくれるところもあります。また、工事現場などの過酷な環境で使用する場合には、購入するよりもメンテナンスの手間が省けるため、長期レンタルを活用する方が望ましい場合もあります。
購入
長期的に使用する場合は、購入も選択肢のひとつです。価格相場は本体代金のほかに、通信費として月額2,000円程度が発生します。
購入の場合、本体保証期間内の故障であれば、無償修理の対象になる可能性があります。ただし期間を過ぎた場合や、故障の内容によっては、有償修理になる場合もあるでしょう。
IP無線機の本体価格は、一般的に60,000〜100,000円程度です。オプション品を追加する場合は、数千円程度の費用がかかります。
IP無線機を購入する場合は、通信にかかる初期費用が3,000円程度かかることもありますので、注意が必要です。ただし、初期費用が無料の機種も存在するため、十分に比較検討することをおすすめします。
まとめ
IP無線機は携帯キャリアの通信回線を使用した無線機です。通信回線はデータ回線を使用するため、通話回線に比べてつながりにくくなることも少なく、比較的安定した通話が期待できます。
MCA無線と比較しても、免許や資格が必要なく利用でき、通信エリアの広さや盗聴や傍受といった心配もありません。また、IP電話のように電話番号にも依存しません。
通話品質の高さや通信制限の影響も受けにくいため、物流や警備、災害時などの幅広い分野で活躍が期待できます。
それぞれの特徴を理解し、状況に応じて使い分けることが効率的なデジタル簡易無線の活用ポイントです。デジタル簡易無線の導入を検討している方は、ぜひ一度ジャパンエニックスにご相談ください。