従来の無線機は電波を利用して音声のやりとりを行う仕組みですが、スマートフォンの普及や通信技術の進歩によってIP無線機という、インターネット回線を用いる無線が登場しました。
通信エリアは全国まで広がるうえ、秘匿性にも優れており、免許の登録、取得が不要という画期的な通信方法です。
この記事では、IP無線機の仕組みや他の無線機との違い、IPネットワークの仕組みについて解説しています。多種多様な無線機の中で、どの種類を選べばよいのか悩んでいる方、IP無線機の導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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IP無線機とは
ここでは、IP無線機の仕組みや通信モード、他の無線機との違いを解説します。
仕組み・構築は?
IP無線機のIPとは、InternetProtocol(インターネットプロトコル)の略称で、インターネットにおけるデータの処理方法を表しています。従来の無線機とは違い、大手携帯電話会社の通信網を利用して音声のやりとりを行う仕組みです。
送信機に入力された音声をVoIP(VoiceoverInternetProtocol)という方式でパケット信号へとデジタル変換します。インターネット回線によって音声が伝達されるため、混信が発生せず、盗聴の心配はありません。さらに音声がデジタル変換される際に暗号化されており、セキュリティは厳重です。
送信側と受信側の無線機が、どちらもインターネット回線を利用可能なエリアに入っていれば日本全国どこでも利用できます。
これだけ聞くと携帯電話と非常に似ていますが、操作性がシンプルで通話ボタンを押すだけで通信できる点や、複数機とグループ通話できるといった点が異なります。通話料もかかりません。
従来の無線機は、出力の大きさによって、周囲の電波に影響を及ぼす可能性があるため、取り扱いに注意するべく免許の登録や取得が必要でした。しかし、IP無線機は大手携帯電話の通信網を利用するだけで、電波に影響が出ません。利用にあたって免許や資格は不要です。
通信モードは?
IP無線機は機種やメーカーによって異なりますが、代表的な機能として以下4つの通信モードを使い分けられます。1対1はもちろん、1対多数の通信には、さまざまな形式が用意されています。とくに通信中の無線機を強制的に切断して一斉送信できる全グループ一斉通信は、携帯電話の通話にはみられない機能です。
個別通信 | 1対1の通話 |
---|---|
グループ通信 | グループ内通話 |
全グループ通信 | すべてのグループへの通信 |
全グループ一斉通信 | 送信側が他の通信を強制的に切断して、すべての無線機へ一斉に送信する |
他の無線機との違いは?
IP無線機は従来の無線機と比べてどのような差異があるのでしょうか。ここでは、特定小電力トランシーバー、簡易業務用無線機、MCA無線機の3種類とIP無線機の違いを解説します。
IP無線機 | 特定小電力トランシーバー | 簡易業務用無線機 | MCA無線機 | |
---|---|---|---|---|
免許 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 |
通信距離 | 全国(圏外エリアを除く) | 約500m~1km | 約2㎞~10km | [1]中継局から 半径約20km |
メリット | ・混信のリスクがない ・通信距離に縛られにくい | ・導入コストが安い ・バッテリーの持続時間が長い | ・高出力で通信が安定しやすい | ・災害時でもつながりやすい |
デメリット | ・通信障害が発生すると利用できない | ・遮蔽物に弱く、通信距離が短い ・混信が多く、秘匿性に欠ける | ・本体重量がやや重い ・バッテリーの消耗が激しい | ・携帯電話の中継局と比較し、中継局が少なく通信エリアが狭い |
特定小電力トランシーバー
特定小電力トランシーバーは、最大出力5W以下の無線機です。出力が弱く、周囲へ与える影響が小さいため、免許や資格は必要ありません。
本体が小型で軽量なので携帯性に優れており、他の無線機と比べると安い値段で入手できます。操作性がシンプルで機能が限られているため、バッテリーの持続時間は長めです。
ただし、通信距離は上記4つの無線機の中で最も短く、500mほどしかありません。遮蔽物にも弱い作りになっています。また、最大チャンネル数が少なく、混信のリスクが発生しやすいことから、同じ周波数を利用している無線機と音声が入り混じる可能性があります。
IP無線機は、特定小電力トランシーバーと比較して通信距離、混信リスクといった点に優れていますが、持続時間に関しては、特定小電力トランシーバーの方が長めです。持続時間だけを重視するのであれば、特定小電力トランシーバーがおすすめです。
簡易業務用無線機
簡易業務用無線機は、出力W数が大きく、約5kmの通信距離をカバーできます。特定小電力トランシーバーよりも通信の安定性に優れています。
ただし、出力が大きいことで3つのデメリットが生じる点には注意が必要です。
1つ目は本体重量の増加です。重いといっても数百gですが、持ち運ぶ時間が長いほど体への負担は大きくなります。
2つ目はバッテリーの消耗が激しい点です。高出力の電波を送信するには相応の電力がいるため、1回あたりの充電で使える時間は特定小電力トランシーバーよりも短くなります。
3つ目は免許が必要な点です。ただし、免許が必要なのは簡易業務用無線機を購入する時のみで、レンタルする場合は不要になります。
IP無線機と比較すると、通信距離が短く、免許が必要なことから使い勝手は劣っています。
MCA無線機
MCA無線機は、中継局を中心とした広いエリアで安定した通信ができる無線機です。
空きチャンネルを自動的に割り当てるため、混信・割り込みが発生しません。したがって、盗聴のリスクも抑えられます。
管理会社が24時間365日休みなく有人での監視作業をしているうえ、中継局は停電時のための非常用バッテリーを備えています。災害時・緊急時でも安定した電波の供給が可能です。
IP無線機は、災害時に携帯電話会社の回線混雑の影響を受けやすく、連絡を取りづらくなる可能性があります。
ただし、中継局の外では利用できないうえ、使用したいエリアの中継局と契約しなければなりません。通信可能エリアを広くカバーするためには、相応の手間と資金が必要です。
IP無線機と比較すると、通信エリアとコストに関しては劣っていますが、災害時の安定した通信の供給という面では優れています。
IP無線機に使用するIPネットワークとは
IPネットワークとは、コンピュータネットワークの1種です。インターネットプロトコル(InternetProtocol)という通信手段を用いて、データの送受信を行います。最も有名なIPネットワークとしては、現在皆さんが利用しているインターネット(Internet)です。
IPパケットというデータを入れる箱のようなものに、各種情報を詰めて送信します。IP無線機は、大手携帯電話会社の提供する通信網を利用して音声情報の入ったパケットを伝達する仕組みです。
IPネットワークの仕組み・構築
ここでは、IPネットワークの仕組み・構築について詳しく解説します。IP無線機がどのようにして稼働するのか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
制限のない通信距離
IP無線機の利用するネットワークは、全国に張り巡らされた大手携帯電話会社の通信網です。
数百m〜数十kmといった通信距離が定められている従来の無線機と違い、圏外にならない限りは日本全国どこでも利用できます。電波ではなくネットワークを経由して音声を届けるため、遮蔽物の影響も受けづらいです。
ただし、山間部や地下といった、携帯電話の回線が不安定な場所での使用には適さないので、注意しましょう。
IPアドレスを持つ機器同士のみの通信
従来の無線機は、同じ周波数(チャンネル)の機器同士で通信を行う仕組みです。したがって、使用している周波数に近い無線機の音声が流れ込んでくる可能性があります。
これを混信といい、自分達の会話内容が第三者側に傍受される場合もあるため、通信の内容は注意が必要です。
IPネットワークを経由して送信されるパケットには、IPアドレスという送り先を識別するための番号が割り振られ格納されています。
通信を行う無線機同士が指定のIPアドレスへパケットを送るため、第三者にデータを傍受・盗聴されるリスクがありません。音声信号をパケットにデジタル変換する際に暗号化も施しているため、セキュリティに優れている仕組みです。
安定した電波
大手携帯電話会社では、利用者の数や通信量に応じた通信環境の整備を行っており、安定した電波をIP無線機でも利用できます。都市部・市街地であれば、まず電波が届かないエリアはないでしょう。
ただし、レジャーで訪れる方の多い山間部や海上といった場所は、電波が届きづらいため、事前に各携帯電話会社のサービス提供エリアを調べておくことをおすすめします。
通信制限になる可能性あり
日本は地震や洪水といった災害の多い国です。大規模な災害が発生すると、各自家族や職場へ安否確認の連絡をするために、通常の何十倍ものアクセスが集まります。
これを通信の輻輳といい、携帯電話会社によっては、安定した電波の供給を図るために通信制限を行う可能性があります。
スマートフォンをお持ちの方の中には、データ通信量を使いすぎた結果、通信制限によって、インターネットへの接続に膨大な時間を要した経験がある方は多くいらっしゃるでしょう。原因は違いますが、災害時にIP無線は同様の状況が発生する可能性があるのです。
ただしIP無線機には、複数の携帯電話会社の回線を利用できる機種が存在します。片方のキャリアの回線に通信制限がかかっても、もう一方のキャリアの回線が通常通りであれば、スムーズに連絡できます。また、災害時にも安定してつながりやすいMCA無線を導入するのも有効です。
まとめ
IP無線機は、従来の無線機の性能を凌駕した画期的な無線機です。電波が入る状況であれば、日本全国どこでも通信できます。
IP無線機の利用するIPネットワークでは、音声情報を暗号化してパケットに格納・伝達するので、秘匿性に優れています。また、簡易業務用無線機やMCA無線機と違って周囲に影響を及ぼす電波を発さないため、免許が不要で導入しやすい点もメリットです。
IP無線で利用している携帯電話回線に通信障害が発生すると、通信できなくなってしまいます。したがって、複数キャリアの回線を切り替えられる機種を導入するのがおすすめです。
IP無線機の導入を検討している方は、ジャパンエニックスまでお気軽にお問い合わせください。