業務で無線機を利用している場合、携帯電話で無線機の代わりになるのではないかと考える人は多いようです。無線機と携帯電話では、通信機能を持っているという意味では共通ですが、コミュニケーションの方法や通信性能、使い勝手という点で大きく異なります。
無線機と携帯電話ではメリットが異なるため、単純に代替えできるものではありません。それぞれの特徴を把握したうえで、より適した用途で使用していくことが大切です。本記事では無線機と携帯電話の違いについて解説します。
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無線機と携帯電話の具体的な違い
端末同士で通話するという点において、無線機と携帯電話は同じ機能を持った端末です。しかし通話する相手が1人だけなのか、また複数人を相手に通話できるかという点において、無線機と携帯電話は根本的に異なります。
ここでは無線機と携帯電話の通話機能の違いや特性について、項目ごとに分類しながら詳しく解説していきます。
通話人数
無線機と携帯電話の違いとして代表的なのが、通話人数の違いです。携帯電話の通話機能では、1対1での通話が基本です。しかし無線機は通信の仕組み上、1対多での通話を前提としています。
無線機では周波数のチャンネルが同じであれば通信を送受信でき、また同時接続可能な人数に制限はありません。つまり、1人の発信する内容を複数人が同時に受信できるため、多人数に対する情報共有や指示が可能です。
建築現場や工事現場、またイベント会場や飲食店などではとくに必要な機能といえるでしょう。
通話内容
通話内容によっても、無線機と携帯電話で向き不向きがあります。たとえば交渉や相談、スケジュール調整などの、込み入った要件を話す場合は携帯電話が向いています。
携帯電話は音質がクリアで、相手の発言のニュアンスなどを汲み取りやすいのが利点です。また同時に発話できるため、テンポ良くやり取りを進められるのも特徴です。通常の会話の延長線上の感覚で話をすすめられるのは、携帯電話のメリットといえるでしょう。
一方で、無線機は複数人の一斉同報ができるものの、通話は特定の一人のみしかできないのが一般的です。そのため、無線機でのやり取りは、端的な伝達や状況の確認といった用途に向いています。通話内容が雑談や会議などやり取りが多い場合は、携帯電話と比べるとスムーズにできないでしょう。
通話制限
携帯電話は契約する携帯キャリアの通信網を使って通信のため、場合によっては通話制限が生じます。データ通信網の不調や正月の意図的な通信制限、特定の中継基地に過負荷が加わっているケースなど、さまざまな場合で通信制限がかかってしまう可能性があります。
しかし無線機ではそのような通信制限はありません。無線機では原則的に無線の電波で通信するため、外的要因による通信制限の心配は不要でしょう。
通話可能エリア
通話可能エリアは、携帯電話が無線機を圧倒的に上回っています。携帯電話各社が敷設した通信網を使って通信するため、超長距離の相手とも問題なく通話できます。
一方の無線機はお互いの電波を使って通信するのが原則で、お互いの電波の届く範囲内でしか通信できません。携帯キャリアのエリア外の地域でもやり取りができるというメリットがあります。
とくに洋上や山間部、また災害時などに無線機は強みがあります。また最近ではIP無線機という、携帯キャリアの通信網を使った無線機も使用されています。
操作性
操作性の面では、無線機は携帯電話と比べてとてもシンプルです。無線機での通話の送信は、送信ボタンを押しながら受話器部分に向かって話せば通話できます。
スマホや携帯電話のように、電話帳を開いて電話番号を呼び出すなどの動作が必要なく、最小限の動作で発信ができます。また受信も操作を必要とせず、送信された音声が自動的にスピーカーから出力されます。
このように無線機は送受信に関するアクションが少ないため、なるべく両手をあけておきたい現場にぴったりといえるでしょう。
携帯性
携帯性は携帯電話の方が優れています。携帯電話は本体が薄く小型なため、ポケットに入れてもかさばりません。付属品も充電ケーブルや外付けバッテリー程度で、これらも小型化されています。
一方の無線機は、携帯電話と比べるとかなり大型で厚みがあります。また充電器や専用のイヤホンマイクなどが必要なことも多く、一式をそろえるとかなりかさばってしまいます。
利用料金
利用料金の面では、無線機の方が安くなることが多いです。
携帯電話を使用する場合は、携帯キャリアに契約して、毎月数千円程度の月額使用料を支払う必要があります。業務で使用する場合は信頼性や安定性を重視するため、比較的料金の高い大手キャリアのドコモ、au、Softbankでの契約が中心となるでしょう。
一方、無線機の場合は月額料金が必要ありません。年間400円の電波利用料を支払うだけで、無線を利用できるため、非常にリーズナブルといえるでしょう。ただしIP無線機は携帯電話の通信網を使用するため、利用にあたっては携帯キャリア各社との契約が必要になります。
スマートフォンでは無線機アプリが利用可能
送受信の簡単さに優位性のある無線機ですが、最近のスマホでは無線機の機能を再現したアプリもリリースされています。スマホの無線機アプリとは、スマホのWi-Fi・4G/5G・Bluetooth機能を使って無線機能を再現したものです。
アプリを立ち上げることで無線機と同様の機能が使用できて、画面の送信ボタンを押すだけで送信が可能となるなど使いやすさも再現されています。
機能面でも無線機をアプリ上で再現しているため、無線機のメリットをスマホで享受できます。またWi-Fiを使えば、インターネットを経由して全国の相手と無線通話が可能となり、IP無線機のような使い方もできます。
このように無線機アプリは無線機の機能をスマホで手軽に使えることから、災害時や緊急時の連絡手段としての使用も期待できます。
無線機アプリを利用するメリット
無線機アプリを利用するメリットには下記のものがあります。
低コストで導入できる
無線機アプリは、利用を始める際のコストが非常に低いというメリットがあります。無料アプリの場合はインストールに料金がかからず、有料アプリでも数百円〜数千円程度でインストールできます。
また無線機アプリでの通信はWi-Fiやキャリア回線、Bluetoothにて行います。既存の料金内で使えるため、無線機アプリの使用によってランニングコストが増えることはありません。
無線機と同じ機能が備わっている
無線機アプリは無線機の機能をアプリ上で再現したもので、無線機と同じ機能が備えられています。たとえば、同じチャンネルにあわせれば、全員のアプリあてに送信された通話が届くなど、使い勝手は無線機とほとんど変わりません。
送信時は画面上の送信ボタンを押すだけで通話が開始できるなど、スマホ上で無線機の利便性の高さを利用できるのは大きなメリットです。
免許申請や更新の必要なく利用できる
無線機アプリの利用には、免許や資格の取得は必要ありません。当然、免許の更新などもなく、面倒な手続きも必要なく、簡単に無線機能を利用できます。
無線機アプリを利用するデメリット
メリットの多い無線機アプリですが、デメリットがまったくないわけではありません。ここでは無線機アプリを使用する場合に気をつけたいデメリットを3つ解説します。
通信可能な範囲が狭い
無線機アプリのデメリットとして挙げられるのが、通信範囲の狭さです。
たとえばBluetoothを使って無線機アプリを使用する場合、通信規格の都合上通信半径はおよそ20m程度に限定されます。通常の無線機で通信できる範囲が数km〜数十kmにも及ぶことを考えると、非常に狭いといわざるをえないでしょう。
もちろん、この通信範囲の狭さはBluetoothに限ったもので、Wi-Fiやキャリアの4G/5G回線を経由すればIP無線機と同様に、日本全国どこでも通信が可能です。しかし4G回線を使用して通信する場合、毎月の月間データ容量を消費してしまうという欠点があります。
またWi-Fiを使った通信の場合は、屋外で自由に利用することは条件的にもかなり限られます。この点からも、無線機アプリを使った通信は一定の制限があると考えてください。
アプリによっては携帯電話の電池消耗が早まることもあります。無線機は常に待機状態であり、送信電波をキャッチしたら即座に受信へと切り替える必要があるため、常にアプリ上のバックグラウンドで立ち上がった状態となることから電池消耗が早まります。
圏外の場所では利用できない
無線機アプリはWi-Fiやキャリア回線、またBluetoothのいずれかを使って通信します。そのため使用する回線が通信圏外の場合はアプリが利用できません。
とくにキャリア回線を使って無線機アプリを利用する場合、スマホの電波が届きづらい場所では無線機アプリも使えません。建物の中や地下など、遮へい物の多い場所で使う場合は注意が必要です。
サポートが充実していない
無線機アプリはアプリ制作者が開発してリリースしているもので、場合によっては個人開発の場合もあります。そのためサポートには限界があり、実質的にはほとんど期待できないことも少なくありません。
アプリストアではサポートに関する問い合わせ先などの記載もありますが、万が一の場合は、自分で情報収集して解決策を探るといった行動が必要になる場合もあります。
まとめ
無線機と携帯電話は通話機能を持っているという点では同じですが、情報伝達の方式やあり方について、異なる考え方のもとに設計されている機器です。とくに携帯電話やスマホの高機能化が著しいことから、スマホが無線機の代わりになるのではないかと発想しがちです。
しかし無線機には特有のメリットがあり、簡単にスマホで代替できるものでもありません。無線機のメリットを再認識したうえで、最適な利用場面や利用方法を再考してみるとよいでしょう。